本記事の目的
今回の記事の目的は、記事のタイトルの通り、
・新株予約権を発行することで株価にどのような影響があるか
について考えや情報をまとめていきます。
新株予約権とは
新株予約権は「ある会社の株式を指定の価格で買う権利のこと」を指します。
これだけでは、何を言っているのか分からない場合もあるかと思います。
一例として、下記の市場で売買されている株式があるとします。
株価:100円/株
これを市場で10株買おうとすると1,000円必要になります。
また、購入した時点の価格からキャピタルゲイン(価格差での利益)とインカムゲイン(配当金)を狙うことになります。
このような通常の株式の購入方法に対して、
上述のように、新株予約権は「ある会社の株式を指定の価格で買う権利のこと」です。
新株予約権で最も基本的な項目として下記があります。
権利を実行する際の株価:10円/株
実行できる期間:2020年10月~11月
これはつまり、たとえ市場価格が100円/株だったとしても、2020年10月~11月の間であれば、10円/株で新株を購入できる権利があるということです。
この場合、10円で購入できれば90円分がキャピタルゲインとなります。
これは1億円で考えると9,000万円がキャピタルゲインになる計算です。
このような側面から、新株予約権を付与される人にとって大きなメリットがあるため、魅力的な権利です。
ただし、ここまでの説明では投資家目線での内容ですが、
・企業側の視点
・既存株主の視点(新株を持つということは、株主になるということ)
・新株予約権を付与された投資家
・新株予約権を付与されていない投資家
等によってメリットやデメリットは様々であるため、注意が必要です。
目的
そもそも、新株予約権はどのような目的で付与・発行するのでしょうか。
基本的には下記の目的の下、その時々に合わせて適切な新株予約権が発行されます。
- 従業員や社員のモチベーションを上げる、維持するため
- 資金を集めるため(資金調達)
- 既存株主の資産を維持するため
- 特定の利害関係者へ利益を提供するため
- 買収防衛策(専門用語としてはポイズンビルと呼ばれています)
種類
では、新株予約権にはどのような種類があるのでしょうか。
一般的な分類としては、新株予約権を渡す人毎に分けられています。
1.社内向けの新株予約権(ストックオプション)
これは社内の従業員や取締役に対して、新株予約権を渡すものです。
この新株予約権を特にストックオプション(SO)と呼んだりすることがあります。
従業員・取締役のモチベーションアップ&維持のために使われる手段です。
2.社外向けの新株予約権
社外の会社や個人投資家に対して、新株予約権を渡すものです。
資金を集めることを主な目的としている手段です。
3.無償割当
既存の株主に対して、無料で新株予約権を割り当てるものです。
新株予約権を発行した場合、既存株主の価値が下がってしまう可能性があります。
その際、既存株主の株主を下げないように対応する手段です。
4.有利発行
この方法は、従業員、取締役、既存株主でも何でもない個人や会社に対して、新株予約権を渡すものです。
特定の目的に縛られず、自由な利害のために対応できますが、この新株予約権を誰かに渡すためには、株主総会で決議をしなければならないため、多少ハードルの高い方法と言えます。
新株予約権発行の株価への影響
ここまで新株予約権に関する基本的な情報をまとめてきました。
ここからは、新株予約権を発行することで株価にどのような影響があるのかを整理していこうと思います。
一般的な視点
結論から言いますと、新株予約権発行をすると、
・発行済株式数が増える。
・一株当たりの純利益(EPS)が下がる(株の希薄化)
・株価は下がる(※だけど、場合によっては上がることもある)
と認識されています。
しかし、これは正しいようで正しくない認識です。
一体何が正しくないのでしょうか。
ファイナンス的な視点
まずは、ファイナンス的な視点で、新株予約権発行についてみてみましょう。
ファイナンス的には、新株予約権は資金調達をするための手段です。
新株予約権を発行し純資産を増やした場合、当期純利益も同様に、純資産を増やした分だけ増加すると仮定します。
通常、新株予約権は資金調達の手段ですので、調達した資金を何かしらの事業投資に向けて振り分けます。その際、調達した時点にて利益が確定しているものと仮定して、理論が組み立てられています。
つまり、実際の投資は、投資後ある程度の時間をおいて、資金を利益として回収しますが、この理論では、即時回収を前提としています。
そのため、ファイナンス的な視点では新株予約権において株価は下がらないと考えられます。
では、なぜ実際の世界では、株価が下がることがあるのでしょうか。
それは、下記のように考えられているためです。
・新しい事業のリスクによる影響
これは単純に社内に人と社外の投資家の間には情報格差が生じて、小さいリスクでも大きなリスクに見せてしまっている場合に発生します。
・新しい事業において、投資資金回収までの時差
上述したように、ファイナンスの前提は、実世界をそのまま反映しているものではありません。投資後、資金を回収するまでの時間差が株価の下落となって表れることがあります。(通常、現在価値の概念がでてきますが、分かりやすくするため割愛します)
・資本構成比率が変わる
新株予約権を発行することで純資産が増えて、有利子負債がそのままである場合、自己資本比率が上がります。このようなシナリオを期待して、投資家たちは資金を投入したり(価格上昇要因)、逆に言うと、ROEが下がるために資金を下げたります(価格下落要因)。
種類毎の株価への影響
先ほど、新株予約権を渡す人によって、種類があると述べました。
その種類によって、株価への影響も変わってくることが考えられます。
発行株数などもあり、一概に言えることではありませんが、
例えば下記のシナリオ(仮説)が考えられます。
・社内向けの新株予約権(ストックオプション)
従業員や取締役に対して発行するもので、通常は発行した後、一定の期間を置かないと売却ができないといったルールがあります。また、発行した後は、株価が上がれば上がるほど会社の業績と自分の利益が合致するので、株価へは長期的に良い影響を及ぼすことが考えられます。
・社外向けの新株予約権
こちらは自社以外の会社・個人に対して新株発行権を渡すものですが、ビジネス上の付き合いとなります。新株予約権は実行するのも、実行しないのも、会社や個人に委ねられています。さらに、会社・個人の新株予約権に対する期待は、従業員・取締役と同様に利益(キャピタルゲインなど)です。
ですが、従業員・取締役と異なり、自分たちのパフォーマンスが会社の業績と紐づきません。そのため、基本的には長期的な視点を持たず、新株予約権発行時にて利益を確定しようとするインセンティブが働きます。
したがって、この種類の新株予約権は株価へは短期的に悪い影響を及ぼすことが考えられます。
・無償割当
無償割当のそもそもの目的が特定の既存株主を守ることです。
そのため、新株予約権が発行されなかった株主(個人投資家など)にとっては、
株式が希薄化し、価値が下がると考えるため個人投資家は株式を手放す可能性が高くなります。したがって、この新株予約権は株価へ短期的に悪影響を及ぼすと考えられます。
・有利発行
有利発行に関しても、基本的には株価へはマイナス要因と考えられます。
事例
では実際にどのような事例があるのか、仮説を検証していきたいと思います。
例えば、
2020年7月31日:サーバーワークス(4434)
・新株予約権(第三者割当)※社外の人への新株予約権
・2020年7月27日~7月30日までの大量行使を発表。
・前日終値14,300円→13,200円(約6%の下落)
2020年8月14日:ラクーンHD
・新株予約権の大量行使発表
・14日終値1,119円→17日終値1,046円(約6%の下落)
(この仮説検証だとなんともいえないので、今後、事例を追加していきます。。。)
※仮説追加後、まとめも載せていきます。
以上、よろしくお願いします。