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個人などに依存せず、会社として、システムとして新規事業を作り出すにはどうしたらいいのだろうか?と疑問を持ちました。システムとして、会社として、リクルートは多くの新規事業に取り組んでいることで有名です。このような背景から『リクルートのすごい構創力』を読むに至りました。
リクルートの すごい構“創"力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド
- 作者: 杉田浩章
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2017/05/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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リクルートによくある誤解
『リクルートのすごい構創力』ではリクルートのよくある誤解として以下の3つが紹介されています。
- 一人の天才がアイディアをひらめいて、仕事をやり抜いている
- 圧倒的な営業力で新規事業を成長させている
- 新規事業全てが確実に成功している
つまり、リクルートの新規事業は天才によって次々と事業始めているわけではなく、単純な営業力の強さだけで新規事業を成長させているわけでもない。そもそも、新規事業が全て確実に成功しているわけでないということです。
また、『リクルートのすごい構創力』では「0→1」に強みがあるのではなく、リクルートは「1→10」に強みがあるということが主張されています。
もっと言うと、リクルートは「1→10」を見据えた上で「0→1」を行っていることに本当の強みがあるということが主張されています。
事業の成長ステージには3つある
この「0→1」だけではなく「1→10」をリクルートはどのようにシステムとして取り組んでいるのでしょうか?『リクルートのすごい構創力』では3つのステージに区分されて説明されています。それは以下の通りです。
- 「0→1」:世の中の不をアイディアへ
- 「1→10前半」:勝ち筋を見つける
- 「1→10後半」:爆発的な拡大再生産
次にこれら3つのステージの内容について言及していきたいと思います。
「0→1」:世の中の不をアイディアへ
この段階で重要なポイントは不の発見、テストマーケティング、New RINGがあります。
①不の発見
ニーズの発見は、お客さんが必要なことを発見するということだが、不の発見はお客さん自身も気づいていない潜在的な不満、不便、不安を含んでおり、社会などの理想を内包している。
また、これらを解消・実現することにはビジネスチャンスがあるという信念も含まれている。
さらに、不を見極める4つの条件も存在する。(本では3つだが。。。)
・見過ごしがちだが誰も目をつけていなかった「不」かどうか
・その「不」は本当に世の中が解決を求めているものなのか
・既存の産業構造を変えるほどの大きな可能性を秘めているのか
・その「不」を解消することが収益に繋がるかどうか
②テストマーケティング
ここではめちゃくちゃすごいアイディアや完璧なアイディアを選ぶというよりも、良いアイディアを成長可能なビジネスに育てることに重点を置いています。
そこで、ここでは限定的な規模でテストマーケティングを設計します。
ここはNew RINGという新規事業の発表内容の一部にも組み込まれている。
・市場はありそうだが、利益が上がるかコストはどのくらいか?
・企業側に不があるのは確かだがお金を払うほどのものか?
などを検証するためにテストマーケティングを設計します。
そして、このテストマーケティングはステージゲート方式で事業へと昇華させていきます。ステージゲート方式とはある時期までにある状態までにならないと撤退するというゲートを段階的に設けている方式です。
例えば、RECRUIT VENTURESでは以下のようになっています。
⑴事業仮説実証
審査通過後から6ヶ月間のテストマーケティング
→魅力的で検証可能な事業仮説の掲示
→事業化審査でのプレゼン
⑵事業化初年度
事業化フェーズに入る(通過した場合)
→強い事業仮説とMVP検証結果
*MVP:Minimum Viable Product(顧客に価値を提供できる最小限の製品・サービス)
⑶事業化2年目
熱狂的なカスタマーがいる状態
⑷事業化3年目
スケール構造を成功させる確証がある状態
→ステージ昇格判断
⑸部門化
年商数億程度かつ成長状態
→事業戦略と投資計画を起案
⑹スケール
黒字化かつ成長状態
→グループ内移管、買収による成長、分社化、売却など
といった流れがあり、それぞれのフェーズで具体的なゲートが存在します。ここでは数値としては書かれていませんが、もちろん数値目標が存在することが想像できます。
以上の流れを見てみるとアメリカのベンチャーキャピタルと近い存在であることがわかります。
③New RING
これはインキュベーションよりも前の段階のアイディアを選び、磨き上げる段階からインキュベーション後の事業を育てて、事業を軌道に乗せるところまでも含むイベント。
ここで落選したアイディアをRecruit Ventureで再応募したり、再度New RINGに応募することもできる。
New RINGで最初の審査のポイントは、市場規模、ユニークかどうか、志の3つです。
・市場規模は30億円〜100億円以上
・ユニークさは国内で初、世界で初レベル
・あるべき社会があり、真に解消する不があり、説得力を持って説明できるか
以上の3点が主に見られているようです。
また、社員からボトムアップで出てきたアイディアであり、新規事業のアイディアを出す人はかっこいいという雰囲気や文化がリクルートには構築されている。
「1→10前半」:勝ち筋を見つける
この段階で重要なポイントは、マネタイズ設計、価値KPI、ぐるぐる図です。
④マネタイズ設計
これは成功可能性の高い仮説を見つけ出すことであって、リボン図でビジネスを設計し、組織全体で収益を生み出し勝ち続ける可能性が高い仕組み、システム設計を指す。
成功可能性の高い仮説の定義はクライアントが明確であること、お財布までが見えていること、利益を生むオペレーションモデルが確立できることの3つの条件を満たすものとなっています。
⑴クライアントが明確であること
そのサービスに対して誰がお金を払ってくれるのか?を検証する。
⑵お財布までが見えていること
誰がどのお財布からお金を出すか?を検証する
⑶利益を生むオペレーションモデルが確立できること
コスト優位性と継続性も重要なポイントではあるが、組織体制や人繰りの回し方なども含めたことも含めて検証する。
⑤価値KPIを探し出す
マネタイズできるかどうかを検証し、成功可能性の高さを把握するために行う「フィジビリ」が存在する。そして、リボン図において、個人と企業の「集める」・「動かす」・「結ぶ」のそれぞれでサービスの効果を表す指標はなんであるかを探し出すこと。特に、フィジビリの最重要目的はKPIの中でもっとも事業価値に直結するKPI(価値KPI)を探し出すこととされている。
つまり、フィジビリでは最終的な目標値ともっとも強い因果関係があるのは何かを探っていくこととされている。
ここで注意が必要なポイントは
⑴価値KPIが見つかるまで徹底的にリボン図の分析を行うこと
⑵実際の行動にまで結びついたKPIになっていること
また、このフェーズでの勝ち筋(価値KPI)とは事業化して本格展開するための構造作りとも言えます。
⑥ぐるぐる図を回す
これには現場と経営者を繋ぐ縦方向のコミュニケーションを縦ぐるぐると言い、異なる役割間のコミュニケーションを横ぐるぐると言う。これらの情報交換を通して、洞察を導き出し、実行を繰り返す。
そして、通常は大した条件などは付けず、利益率2〜3%ほどで本格的な事業化を進めていくが、リクルートにおけるフィジビリの合格は利益率20〜30%が合格ラインとされており、100億円規模の事業に成長する可能性があるとみなされて初めて次のステップに移行する。
つまり、ここで勝ち筋を見つけるまで、事業としてアクセルを踏み込むことはない。
「1→10後半」:爆発的な拡大再生産
ここでは勝ち筋やKPIが発見されてからあとは実行をし続けるフェーズだが、継続して実行していくためにリクルートには価値マネ、型化とナレッジ共有、 小さなS字を積み重ねるという仕組みがある。
⑦価値マネ
KPIマネジメントのことで、KPIの数値を上げたり、下げたりした要因を話し合ったり、分析したりして洞察を導き、KPIの数値向上を管理すること。
⑧型化とナレッジ共有
KPIを上げるために効果があった個人のアクションを、成功ケースを分析することで見つけ、誰もがマネできるようにして、横展開すること。
⑨小さなS字を積み重ねる
S字を重ねて成長を続ける。そのために、現場・マネージャー・経営層、営業部門、制作、エンジニア部門などで縦横ぐるぐるをし続ける。
まとめ
リクルートは
▼「0→1」
①不の発見
②テストマーケティング
③New RING
▼「1→10前半」
④マネタイズ設計
⑤価値KPI
⑥ぐるぐる図
▼「1→10後半」
⑦価値マネ
⑧型化とナレッジ共有
⑨小さなS字を積み重ねる
の9つの方法を通して、新規事業をスケールしている。
また、これらのプロセスや方法に応じて、経営層がやるべきことは
▼「0→1」
主に判断をする
▼「1→10前半」
経営層の関わりは減ってくるが勝ち筋やマネタイズの可能性、撤退などの問いかけをする
▼「1→10後半」
経営層の判断が減り、現場に任せることがかなり増える
そして、上記のプロセスで追い込むだけではなく実現するために必要なリソースを投入するということもする必要があります。
また、これらのプロセスを実行するのは人であり、そのために人を生かす環境、若さを保つ、器をそろえるという観点を持つことで実際に社員がこのプロセスを実行可能性が高まると考えられます。
他方で、リクルートには誰かにやられるくらいなら、自らが自らのディスラプターになってやろうという考え方は、企業の命を長期的にしたいと考えるのなら、とても良い考え方だと思いました。
もう一つ感じたことは、かなりスピーディーな判断と実行を繰り返しているということです。それは実行レベルでも新規事業の立案から事業化までの動きにしてもです。
アイディアを実際に実証可能な仮説の形にして、テストマーケティングするという考え方は当たり前ではありますが、実際に具体的な条件を持って実行することは見落としがちです。この点、自分が事業をする際には非常に参考になると感じました。
リクルートの すごい構“創"力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド
- 作者: 杉田浩章
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2017/05/26
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